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No.106(抄)
INDEX
◇戦争は幼い子どもを犠牲にする~映画「あの日のオルガン」を見て~ 正保 宏文
◇高齢者も現役世代も安心の年金制度を 田中 博
◇ネットワーク学習会 小椋千寿子
◇思いを集め、知恵を出し合い、子どもたちを幸せに! 秋山 正美
◇今の私を責めないで、未来の私を励まして
生まれ育ち、学びながら育つということ⑧ 学校風景 Ⅱ その3 高卒認定フジゼミ講師 志賀 兼允戦争は幼い子どもを犠牲にする~映画「あの日のオルガン」を見て~ 相談員 正保 宏文
先日、映画「あの日のオルガン」を観た。物語は、一九四四年の物語。監督は、山田洋次監督の愛弟子で倉敷市出身の平松恵美子監督。
終戦末期に、八人の独身の保母さんたちは空襲を避け子どもたちの命を守るために、彼らを疎開させようとした。もちろん、それに反対する親御さんもいたが、最終的には、五十三人の子どもたちを連れての疎開となった。疎開先のお寺は廃屋同然の荒れ寺で、トイレは一つ、風呂もなく、食料も地域の人に頼るなど、十分でなく大変な船出であった。しかし、保母さんたちは子どもたちを守るために困難を乗り越えていった。
一九四五年三月十日の東京大空襲で十万人もの犠牲者を出したが、疎開先の子どもたちは全員無事であった。彼らの中には、両親を失ってしまった子どもたちもいたが、親戚の人に引き取られていった。そもそも戦争さえなければ、保育所の疎開なども必要なく、親子が引き裂かれることもなかった。私たちの多くは、親子が一緒にくらせることに何ら感慨も持っていないが、本来は本当に素晴らしいことなのである。日常の平凡な暮らしの中にある幸せ、何気ない平凡な一日一日の繰り返しが、本当は小さな幸せの積み重ねではないか。平凡な幸せこそが私たちにとって大切なもの、かけがえのないものではないのかと思った。
戦争は、いつも子どもたちや社会的弱者に犠牲を強いる。戦争によって日常の幸せが切り裂かれ、無残にも夢も希望も命までも奪われてしまうこの現実。平松恵美子監督の子どもたちを見るまなざしはどこまでも優しく、慈愛に満ちている。声を大にして戦争反対について語る場面は全くないが、この映画を見終えたときすがすがしさと言おうか、不思議な満足感を得ることができた。私自身は、戦後生まれで、戦争を知らない世代であるが、ますます平和憲法を守らねばと決意を新たにしたところである。
高齢者の現状と日本・世界の高齢者向け施策
高齢者も現役世代も安心の年金制度を
全日本年金者組合岡山県本部 書記長 田中 博
2015年度の厚生労働省資料によると国民年金のみの受給者は七四六万人(平均月額5万円)、厚生年金受給者で月額10万円以下の方は三九〇万人、そのほかに無年金者が約一〇〇万人と言われ、合計は一二三九万人です。高齢者三三八四万人のうち年金収入が月額10万円以下の方は約37%になります。
生活保護世帯における高齢者世帯は2016年に50%を超え、増え続けています。低年金受給者が多く生活保護を受けざるを得ません。つまり、日本では高齢期の生活保障は生活保護制度しかないということです。次ページの表は主要先進国の低所得高齢者向けの「最低所得保障」制度です。
米国では65歳になれば低所得者は最低限の生活費を保障する補足的保障所得(SSI)によって月850ドル(9.4万円)が受給できます。(矢部武著「日本より幸せなアメリカの下流老人」朝日新書より)
日本には高齢者向けの「最低所得保障」がなく、前記のような高齢者の実態は明らかに憲法25条(生存権保障)に違反しています。
政府は今年4月の年金改定では物価が1%、賃金が0.6%上がったにもかかわらず、年金改定額は0.1%しか上げませんでした。『マクロ経済スライド』が2015 年度以来4年ぶりに発動され、さらに2016 年12 月に強行可決された『年金カット法』で導入された『キャリーオーバー』制度も合わせて発動し(実質0.9%をカット:総額5000億円減)たからです。
政府の年金制度改悪によるこの措置は明らかに憲法25条2項「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」に違反しています。つづく
ネットワーク学習会
ネットワークの相談員の力量アップのために、定期的に学習会を開催しています。会員の皆様にもご案内していますので、興味がある方はぜひ参加していただけたらと思います。 相談員 小椋 千寿子
二月十五日の相談ネットワーク学習会は、「ステップハウスわ!」の平井育子さんに『ステップハウスのこれまでとこれから』について、お話していただきました。
「ステップハウスわ!」は、就労移行支援と就労継続支援B型事業所として、「精神的、身体的、知的に特性を持つ、また自閉症スペクトラムと呼ばれるメンバーたちの特性に合った働き方を、活動を通してさがす」ステップアップしていくとりくみをされています。わ!は、平和のわ!みんなのわ!おどろきのわ!の、3つの想いをこめてつけられたそうです。
活動内容は、屋内作業(裂きおりを主にした織物・草木染・刺し子・竹細工・ビーズを使った小物・タオルたたみなど)と屋外作業(施設外実習・チラシや冊子などの配布作業・会報・
発送作業・自然を愛で食す会の活動を通して四季を楽しむなど)で、メンバーが作業を選び、チャレンジし、ふりかえり、それぞれの特性の理解につなげているとのことです。
就労後もきめ細かい定着支援をされている事例をお聞きしました。本人や職場からの電話やメールなどでのSOSに対して、ジョブコーチの資格を持つスタッフを中心に、職場と本人の間に入って、面談や職場訪問、家族や医療機関との連携など丁寧な支援をされています。メンバーにとって、就労後も困ったことや悩みを出せる場として「ステップハウスわ!」があるのは、心強い支えになっていると思いました。“はじめて給料をもらった”“今日は仕事が休みなので”と、就労後もわ!を訪れる青年たちとのやりとりを話してくださった平井さんの笑顔が印象に残りました。
思いを集め、知恵を出し合い、子どもたちを幸せに! 秋山 正美
虐待やいじめなどによって子どもたちが命を落とす事例が続きます。TVのワイドショーでは、コメンテーターが詳細にフリップまで用意して語っています。そして、何日かすると、全く消えていきます。私は、こうした報道番組を見る機会は多くないのですが、それでも何か引っかかるものがありました。そうした折に目にしたのが、次に紹介する新聞の記事です。
「身を切る」という政策のもと、教員、公務職員は減らしに減らし続けられてきた。公務の本質である「奉仕者」という役割が果たしきれなくなっている・・・・。
千葉県野田市で起きた虐待死。みんなで解決の糸口を見つけようと、日本共産党のおだ真理市議はブログにつづり続けます。もうこれ以上苦しめられないように。そんな願いから、この間の『公務員バッシング』の罪を問うています。
人減らしと同時に目を向けるべきは「専門性を奪われてきた歴史だ」だと、ブログを読んだ小学校教員は言います。「削られたのは人の数だけでなく専門性、専門的力量、専門職として
の誇りや、やりがい。数え切れないほどの大切なことが奪われてきたのだ」と 。
「スタンダードでそろえよ」「例外を許さないゼロトレランス(寛容度ゼロ)を」と画一的な対応を教師に迫り、「評価」で脅す。専門職が専門職として存在すること自体を許さない構図です。学校は、命をはぐくむ場ではなく、命を削る場におとしめようとしています。
「先生、助けて!」。最後の悲鳴に心を寄せられない「専門職」にしてしまったのは、いったい誰なのか。その反省もなく、「しっかり対応を」と現場を締め付けても、目の前の子どもは苦しむばかりです。
かたちばかりの「再発防止策」を急ぐ。そんな繰り返しはもうやめたい。思いを集め、知恵を寄せ合い、子どもたちに幸せをもたらす道を模索したい。かけがえのない命を守るたたかいが今、おとなたちに求められています。(新聞赤旗3/5 潮流)
この記事を読んで、私のモヤモヤが晴れた思いです。現場の先生たちから、「せんせい、あのね」と言葉をかけてくる子どもに、「ちょっと待ってね」「あとでもいい?」と足早に去っている自分が辛いという話を聞きます。本来、子どもの目の高さで、「なあに」「それで」「ふうん」と思いに共感しながら思いを引き出し、子どもの声に耳を傾け、笑顔にしてあげられるのが教師の仕事。先生に聞いてもらえたことで、元気を取り戻す子どもたちはたくさんいます。大勢の中では、自分を出せないけれど、先生がクッションになって、苦しみをためないことができることもあります。輝くひとみを取り戻す子どもとのかかわりの中で、教師も成長し、専門職としての誇りを持つことができるのではないでしょうか。余裕がなく本来の仕事ができないなんて異常です。
問題が起きて「評論する」のではなく、家庭にゆとりを!学校にゆとりを!教師にゆとりを!本気で取り組まなければ、不幸な子どもたちは後を絶たないのではないでしょうか。
さて、新学期が始まりました。新しい学年、新しい教室、新しい先生に「今年はがんばろう!」と瞳を輝かせて登校する子どもたち、「今年もがんばろう!」とはりきる教師たち。この思いをしぼませることなく、さらに輝かせていくためにも、地域の大人たちの果たす役割は大きいのです。
そして、なによりも、この春のスタートを学校で切れない子どもたちがたくさんいることを忘れてはなりません。悶々と新学期を迎えている子どもたち。みんな、みんな大切な宝物。
子育て・教育なんでも相談ネットワークはこれからも、子どもたちや親御さん、家族の相談相手になっていきたいと思います。
今の私を責めないで、未来の私を励まして
生まれ育ち、学びながら育つということ⑧学校風景 Ⅱ その3
高卒認定フジゼミ講師 志賀 兼允
小学生の一人の児童が職 員室のドアを開いた。そし て、直立不動の姿勢で、 「失礼します!三年一組〇 〇です。コンピュータ室の カギを借りるため、職員室 に入ります!」と選手宣誓 のような大きな声を天に向 かってあげた。子どもの賑 やかしい声を拒否するかの ように、整然とした机が居 並ぶ職員室。教頭先生が眼 鏡越しに、ジロリと幼い児 童を顔写真でも見るように なめまわした後、「入って よろしい」と応える。する と、「三年一組〇〇、コン ピュータ室のカギを借りに 職員室に入ります」と鍵板 からカギを取り上げ、帰り際に又「ありがとうござい ました。失礼します」と規 律正しく出ていった。
自由で磊落な風土の中で。 創造力と生きる力を育む学 校。規律と規則で縛られ圧 殺された空気の中で、どん な芽が出て、花を咲かせる のだろうか。
授業終了のチャイムが鳴 る。それでも授業を続けて いる教室もあるが、それで も休憩時間に入ると、校内 は一気に喧噪の中に包まれ る。止まったような空気と 時間が動き出す。教室から 職員室へ向かう教師と、廊 下で特別教室などに移動する生徒や、たむろする生徒 たちと出くわす。教師の定 型化された言葉かけ。 「おい!そこの○○、シャ ツが出とる、ちゃんと入れ んかい!」 「おい!そこで遊ぶな、や かましいじゃろうがあ!休 憩時間は静かに次の授業の 準備をして、じっとしとけ え!」 「おい、おみゃあ、名札を ポケットの中に入れて隠す な!」 「ちょっと待て!おみゃあ ズボンがちょっとおかしい ぞ、こっち来てみい!」 「なんならあその髪は、ちょっ と職員室へ来い!」 「三年じゃろうが、そんな態度じゃ、どこの高校も入 れてもらえんぞ!」 「・・・・・」 次々と飛び交う通りすが りに響く教師の生の声。は やりの言葉かけは「シャツ だし」。水にはじかれる油 のような内面に浸み込まな い教師の言葉かけ、子ども は辟易している。学校にお ける管理は、あらゆる時間、 あらゆる場所で貫徹されて いる。もっと気の利いたしゃ れた言葉かけは思い浮かば ないのだろうか。どんな些 細な違反行為も許さない名 付けて「ゼロトレランス指 導」学校における競争的秩序を守り、徹底する事を最大 のねらいとして、今「ゼロ トレランス」政策が全国の 学校教育現場に導入され、 その徹底がはかられようと している。子どもに「何を してはいけないのか」の細 かいルールが事前に決めら れ、ルールを逸脱すれば、 どんな些細な事でも重い刑 罰が極めて機械的に課せら れていく。新教育基本法の 翌年の二〇〇七年度から復 活した全国一斉学力テスト と軌を一にするように学校 の競争的秩序を貫徹させる ために文部省による上から の動きが作られ、今、枝葉 を伸ばすように全国に広がっ ている。ゼロトレランスは、 権威への服従への教え込み などと言う、まどろっかし いものではなく、「教え込 みなどという人格形成への 働きかけさえ存在しない、 強烈な競争的秩序の効率的 な防衛のための罰を通じた 子どもの行動管理だけ」 (ゼロトレランンスで学校 はどうなる 花伝社)
ゼロトレランスは、学校 懲戒あるいは、生徒指導に 関わって子どもの人間とし ての成長発達保障という視 点が完全に否定されている。 授業妨害には、機械的な別 室指導、対教師暴力につい ては機械的に警察に通報さ れることがルール化されて いる。
今、子どもたちは、この 学校の日常性に戸惑ってい る。そして「学校の当たり 前のくらしに抵抗するもの。 諦めて服従するもの、服従 し、抗う術をなくして閉じ こもるもの・・・」。はみ 出す子は、圧迫感に叫びを あげ、静まっている子は、 それに耐えているように思 えて仕方ない。大人や社会 の作り出すおかしな風景に、 一番敏感に気づき、反応し ているのは子どもなのかも しれない。子どものおかし さを言う前に、教師の、学 校の、更には重苦しい社会 的秩序の空気のおかしさに
気づかなければならないの ではないだろうか。慰めの 言葉もなければ、励ましの 支えもない学校の空気の中 で子どもの見せる様々なサ インに気づかなければなら ない。それに、何といって もこの国の指導者が押し付 ける道徳、「言わず、語ら ず、言い訳ばかりの政治家 なんかに、道徳、道徳と言 われとうないわ〜。あんた ら、何やっとんやあ。」と、 のたもうた中学三年生のた め息が今の学校教育の行方 を示唆してくれている。
「社会秩序を乱したり、反 抗するような性格において も、その責任は個人にある のではない事は明らかであ ろう」(カント) つづく
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